コンパス [ニュースレター:2023年二月号] / by kaz yoneda

Credit: CC0 Public Domain

建築を学ぶ学生だった頃、先生から「建築学科を卒業する100人の学生のうち、実際に建築のプロフェッショナルとして残るのは10人だ。そして、その10人のうち、開業するのはたった1人だ 」と言われました。それに続く詳しい話をしなかったことを思うと、その先生にとって理解できない事柄だったのかもしれません。そして私は、統計の一部になったのです。ほんの少しのナイーブさ、たくさんの野心と希望を胸に、開業に踏み切った一人として。もし、そのときに自分がどんな茨の道に入ろうとしているのかが分かっていれば…。 昨今の米国労働統計局のデータによると「新規事業の約20%は開業から2年の間に、45%は5年の間に、65%は10年の間に失敗する」といいます。さらに新規事業のうち15年以上続くのはわずか25%とあります。

Credit: Ylanite Koppens

ビューローは、今年6期目に入りました。これまでなんという冒険をしてきたことでしょうか。いわずもがな、私たちは15年以上継続することを目標としています。私が学生だった頃、デザインや建築の学校では経営やビジネスに関して学ぶ機会はほとんどありませんでしたが、この急速に変化する世界において、それは私たちの専門分野にとって非常に重要なのです。こうした成長・発見の過程では、自分を、そして本当に大切なことを見失ってしまいがちです。例えば、ポテンシャル・プロジェクトを探したり、事務手続きの書類を作成し、協働者を追いかけたり、オフィスでの日々のタスクをこなしたり。そのような中で、なぜこの分野に足を踏み入れたのか、その初心を忘れてはなりません。ビューローにおいて新しいものを創ることは、本質的に「良い」「完璧」「完全」と認定されにくいと考えています。不完全さは、完璧さが欠けているのではなく、時間とともにより良くなっていく可能性を常に顕現している状態だと捉えます。私たちは、常に1と0の間にいるのです。デザインをするときには、クライアントや彼らの欲望だけでなく、より大きな文脈である文化や歴史、絡み合った物語などに注目し、そこから新しいデザインを生み出すことができると信じています。多種多様なことを想像して、創造していこうとしていますが、そのためには相応の時間がかかります。さらに、私たちは、奴隷的な労働によって、人々の健康や福祉の権利を奪うことなく、美しいものをデザインすることができると信じています。そして、燃え尽きることなく、良い結果を成し遂げることができると信じています。デザインは、体力と想像力を一滴残らず絞り出す創造的なプロセスですが、その流出を補充し、自分を満たすインプットは、人によっては、運動、美術館巡り、読書、瞑想、あるいは単なるボーっとできる時間などどんなものであれ、重要なことだと思います。オフタイムの充実は、創造的なプロセスの必要不可欠な部分と考えています。

Credit: CC0 Public Domain

Credit: Kaz Yoneda, Bureau 0-1, from Alluvian Ecosphere research

日々の雑務や多趣味で自分を見失わないために必要なのは、自分自身の中にコンパスを持つことです。人生の荒波を乗り越えていくための羅針盤(方角的コンパス)だけではありません。私は、製図で円を描く時に用いるコンパス(領域的コンパス)のようなものに自分を照らし合わせるようになりました。それは、人の中にあるさまざまな分人的な素質を顕在化させるようなものだと考えています。一本の軸はアーキテクチャーに根ざしてはいますが、様々なことに興味を持ち、他にもあれもやってみたいこれもやってみたいと思う散漫気味な性格なので、もう一本の軸足は、常に他の役割や分野をぴょんぴょん飛び回っています。私の場合、教えること、書くこと、歴史を学ぶこと、妄想すること、運動すること、訪れたことのない場所に行くなどの行為が現状ですが、将来どれだけの分野に興味を持つかは分かりません。あまつさえ、私は一つの思想やスタイル、師弟関係の系統に自分を合わせることに終始無関心なのです。私は、アメリカ人でも、日本人でも、地球人でもいいのです。同様に、私は教師でも生徒でも、ディレクターでも協働者でも、ジェネラリストでもスペシャリストでも、デザイナーでも批評者でもありえます。そして、建築に根ざしながらも、最終的には企画からリサーチ、あらゆるもののデザインまでこなせるような、コンパスのようなビューローでありたいと思っています。最終的には、私はビューローの一員でありながら、その究極のクリティークとして、懐疑的にその一挙手一投足に疑問を投げかけることもできるのです。私たちは皆、多面的な分人性を持つユニークな存在であり、誰も個人の全体像を理解することはできません。それでいいと思っています。あなたがあなた自身であるように自由であり、それを謳歌することが幸福なことです。あなたのコンパスがそこにあり、あなたが地に足をつけている限りは。

執筆(英文):カズ・ヨネダ
第一読者:グレゴリー・セルヴェータ
編集:出原 日向子

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お付き合いいただきありがとうございました。それでは、次回をお楽しみに!