代官山:デザインが辿ってきた系譜 [ニュースレター:十月号] / by kaz yoneda

旧山手通りの眺め

ある日の夕方、高級住宅地である代官山を歩いていた。木々の梢の向こうに夕日が沈み、涼しげなブルーの歩道に店先からの光が落ちている。この付近のメインストリートである幅20メートルの旧山手通りには、クスノキやケヤキの樹冠が揺らいでいる。歩いて20分ほどのところにある渋谷交差点の喧騒に比べれば落ち着いた雰囲気で、洗練された印象の30代の若者たちがゆったりと歩いている。

代官山の雰囲気は独特だ。東京は特異な街として知られているが、ほとんどの街はいくつかのタイプに分類することができる。例えば新宿と池袋は、周辺地域の鉄道とオフィスの拠点、下北沢や高円寺は、郊外の中流階級が集まるローカライズされた商業ゾーンだ。しかし、代官山はそのようなカテゴライズからは外れており、この街の明確な比較対象は他にはない。

現在の代官山の特徴は、槇文彦が40年以上をかけて設計した複合施設《ヒルサイドテラス》に起因する。丘の斜面に沿って複雑に配置された建物、路地、空間は、古い林、大正時代の邸宅、7世紀の古墳など、過去の遺物を縁取るように配置されている。 大高正人と共同で『メタボリズム1960』に寄稿した「群造形」の理論を最も完全な形で実現した、槇氏の傑作である。

旧山手通りを挟んだ両側数百メートルに面している槇のコンプレックスが代官山を特徴づけるのに重要な役割を果たしているのは当然のことだ。しかし、近隣にとってのヒルサイドテラスの意義は、その存在だけではなく、その影響力にもある。

近年、代官山では槇の築いたパターンが様々な建築家によって再現されている。平田晃久の《sarugaku》、クライン・ダイサム・アーキテクツの《代官山T-SITE》、エコラボの《代官山キューブ》などがその代表例である。これらのプロジェクトは、1つの敷地の中で、形式的には関連性があるが構造的には異なる建物を配置し、共有スペースを確保するという空間フレームワークの順応性を証明している。槇がヒルサイドテラスに構築したアイデンティティは、ケビン・リンチの言葉を借りれば、代官山全体の「イメージ」であると言える。

このような都市デザインのローカルな系譜の中で、この地域の形式的・構成的なボキャブラリーはヒルサイドテラスのそれとよく似ているが、プログラム的な特質はあまり似ていない。ヒルサイドテラスとその後の再解釈との最も重要な違いは、ショッピングによって定義される度合いである。先に挙げた《sarugaku》、《代官山T-SITE》、《代官山キューブ》などは、いずれも商業施設が中心である。

代官山の地図。ヒルサイドテラスを赤色、関係するプロジェクトを白で示している。

それに比べて《ヒルサイドテラス》は、まるで小さな街のように機能している。アートギャラリー、エキシビションホール、パフォーマンス会場、茶室、神社、会員制クラブ、オフィス、そして何よりも多くの住宅が含まれている。店舗もたくさんあるが、段差やスロープ、間接的な入口などでパブリックスペースとは微妙に分けられている。良くも悪くも、どの店舗も隣接する広場にオーナーシップを持っているようには感じられない。コンプレックスに設置されたパブリックアートの存在によって市民としてのアイデンティティが共有されているように感じられる。

商業エリアとしての知名度が高まってきたことで、代官山は文化と商業の狭間で揺れ動いている。しかし、この地域の物語はまだ始まったばかりだ。蔦屋書店の旗艦店として人気を博した「代官山T-SITE」は仮設的な構造であり、付随する約4,000m2の駐車場はこの地域で最大の未開発区画となっている。周辺では他にも再開発が進んでいる。ヒルサイドテラスは表向きには完成しているが、近隣の変貌の一端を担うことになる。

代官山は槇の構想によって、眠ったような半端な田舎町から、成熟した空間と建築物を持つ街へと発展してきたが、今後も変化する可能性を排除することはできない。このエリアを遺物のように扱うことは、デザインの根底にある新陳代謝の哲学を無視することになる。これからの代官山は、不動産投機や嗜好の変化、そして時代の流れの中で、いかにアイデンティティを確立していくかが問われているのである。

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-ドン・オキーフ
リサーチャー、建築デザイナー、ライター
慶應義塾大学助教、ハーバード大学デザイン大学院(GSD)助手を勤めながら独立してデザインを行っている。慶応SFC槇文彦アーカイブにてリサーチャー、ハーバードGSDのリサーチプラットフォームであるジャパン・ストーリー(https://japanstory.org/)においてデザイン・リサーチのコーディネーターを務める。『The Architectural Review』『the Japan Times』他で執筆。

監修:カズ・ヨネダ
編集:出原 日向子
アソシエイト:園部 達理

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