囚われた自然 (1/2) [ニュースレター:六月号] / by kaz yoneda

*注釈:この作品は、英国の建築誌『Architectural Review』2021年2月号に庭園をテーマとして掲載されたものです。当初は「Arboreal Artifice」という改題で、日本語では掲載されていませんでしたが、この機会に皆様に向けて公開したいと思います。長編であったため、2回に分けてお届けしています。今月はその前半です。

樹木のニオテニー(筆者撮影)

拘束された自然:商品化された木々の表層 (1/2)

丹念に移植された318本の樹木は、人間の手による卓越した介入の結果です。無垢な樹木たちは人間の気まぐれな手によって、時間が止まったまま生きる彫刻へと変貌を遂げました。それは、人間の知恵によって自然を平衡状態に戻し、人間と自然の関係を表象しようとする意図に基づくものです。庭はキャンバスであり、人間の手はそれを自分の主観的な理想に近づけるための主人なのです。

この一風変わった庭園は石上純也建築設計事務所が設計し、2018年6月に完成したもので、パンフレットには「訪れる人の内面を映し出す、哲学的思考の場」と謳われています。多くの樹木は隣接地から移植されたもので、もともとは森林の多い里山で、高級ヴィラと新しいレストランに開発される計画でした。東京から新幹線で北東に1時間、皇族や富裕層が避暑地として好んで訪れる栃木県那須塩原市から更にシャトルバスで1時間、「カルチャーリゾート」を自称するアート・ビオトープが所有し、運営を行っています。この一帯は、カフェレストラン、ギャラリー、長期滞在型レジデンス、ガラスや陶芸のアトリエからなる広大な複合施設です。件の《水庭》はこの施設の一部として依頼されたもので、この施設の利用者のみが立ち入ることができます。

私が《水庭》を訪れたのは、雪が半分溶けた頃で、冬眠中の葉のない木々に覆われた景色に出迎えられました。池の底には落ち葉が堆積し、腐葉土に分解されながら、限りなく変化しているのがわかります。この庭園を体験するのに最適な季節は春と秋ですが、冬には荘厳な荒涼とした雰囲気が漂い、澄んだ空気と刺すような寒さが感覚を研ぎ澄ませてくれ、一人で散策するのにちょうどよい時期でした。

凍った庭(筆者撮影)

有機的で複雑な形状と手入れの行き届いた景観は、初見としては魅惑的ですが、同時に儚く脆く当惑的でもある印象を受けました。この庭園は、隠喩、比喩、曖昧な作り話が創り出す調和のとれた小宇宙であり、迷い込んだ人々が自らの思考に没頭できるように、頭で考えるのではないエモーショナルな環境を提供してくれます。冬になると姿を表す樹冠の格子は枝々と重なり合い、そのシルエットは自然の有機性を織り成します。しかし、木の幹や根に目を向けると、明らかに人工的で不自然なものを感じるでしょう。樹木を傷つけずに抜き取るために、日本に2台しかない専用の機械が投入され、1日に4本のペースで移動させたようです。そこには秩序があり、林業のような直線的なグリッドではなく、島々の曲がりくねった幾何学とそこに植えられた樹木の中心性との関係という明確なルールとシステムによって移植されています。

日本には、多様な哲学的思想をもとに、さまざまな形で人々の生活に根ざしてきた庭の歴史があります。桂離宮の回遊式庭園から、禅宗の枯山水庭園まで、現代の日本のランドスケープデザインには、数多くの先例があります。《水庭》は、新しい庭の創造を意図したものですが、造成・維持管理の両面において、日本庭園の精神と文脈を継承しているように思います。日本の伝統庭園は、美しくピクチャレスクでありながら、究極的には、人間と自然が、一方が他方に取って代わることがない限り、共生しうるという、非常に理想的な生態系の表現なのです。


見事に手入れされた庭(桂離宮にて筆者撮影)

《水庭》を見渡すと、池は水田を、島を覆う苔は牧草地を、樹木は日本古来の里山風景を想起させるといった独自のナラティブにより、景観考古学の痕跡が庭園の構成要素と一対一の関係で配置されています。それぞれの言葉には、農耕的な生産風景だけでなく、ロマンティックに昇華された農村風景も含まれていることに着目しましょう。実用的な面では、陸地と海を覆う社会生態学的生産フィールドは、人間と自然の相互作用によって生み出される多様な土地利用と持続可能な生態系のパッチワークを生み出していたはずです。これらの相互作用は、長い時間をかけた一貫性のある丁寧な作業によって、生産性、共生、意味を獲得するものであり、水田も牧草地も里山のプロセスや哲学の範疇に含まれているのです。《水庭》は、こうした背景を引用しながらも、その目的はあくまでも美的なものであり、里山体系が持つ固有の生産的な記憶とは一線を画しているのです。

執筆(英文):カズ・ヨネダ
編集:出原 日向子
アソシエイト:黒澤 知香

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来月、7月号に後半をお届けします!乞うご期待。
お付き合いいただきありがとうございました。それでは、次回をお楽しみに!