建築家のビッグマック指数 [ニュースレター:五月号] / by kaz yoneda

*注釈:記事の典拠として2021年から2022年4月にかけての平均的な外為指数を算用しています。円安が進んだ現在は、より深刻なビッグマック指数、更には建築家の指数の格差を生んでいると言えるでしょう。

credit: wayhomestudio

ここ最近、私たちの職業とその公平性について、内省を促すような興味深い記事が2つありました。最初の記事は、大学卒業者の専攻分野別最高給与額に関するもので、『Bloomberg』が発表したものです[1]。よくある結果かもしれませんが、上位はすべて工学系で占められ、最高額はコンピュータ・エンジニアリング専攻の年収74,000ドル(約940万円)となっています。一方、米国の建築家の平均年収は44,409ドル(約564万円)です[2]。つまり、映画の中のブラッド・ピットのような華やかさはない……ということでしょうか?

2つ目の記事は、経済学者で一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏によるものです[3]。英国『Economist』誌が毎年発表しているもので、世界中の「ビッグマック指数」をテーマにしたものです。ただ、私のような非マクドナルド消費者にとっては、そもそも日本ではビッグマックがいくらなのか知らなかったので調べたところ、2021年6月時点で日本でのビッグマックの価格は390円で、1ドル=109.94円で換算すると3.54ドル。これに対し、アメリカでの価格は5.65ドルです。つまり、日本のビッグマックの値段はアメリカの値段の62.8%に過ぎないのです。

さて、「ビッグマック指数」は以下の計算式で算出されます。

{(米国以外の国のビッグマック価格)/(米国でのビッグマック価格)-1}×100

*アメリカのビッグマック指数は定義上、常にゼロである。

この指標で日本はどう見えるでしょうか?

{($3.54÷$5.65)-1}×100= -37.2

野口氏によれば、この値がマイナスでかつ絶対値が大きいほど、米国へ行ったときに物価が高いと感じることになります。一般に、ビッグマック指数が小さい国の人が大きい国へ行くと、物価が高いと感じます。ここで最も重要なのは、ビッグマック指数が各国の購買力を表していることです。参考までに、2021年6月時点のいくつかの国のビッグマック指数を小さい順に並べると、次のようになります。スイス(24.7)、ノルウェー(11.5)、スウェーデン(9.6)、EU圏(-11.1)、韓国(-29.2)、アルゼンチン(-30.2)、タイ(-31.0)、パキスタン(-36.3)である。

このことから、私はこの2つの記事の関連性、つまり、私たちの職業全般の公平性について、また、国境を越えた私たちの職業の公平性についても考えるようになりました。

前述したように、米国におけるエントリーレベルの建築家の平均給与は約44,409ドルであり、これは約513万4,213円に相当します。そして、野口氏の記事によると、日本のビッグマック価格はアメリカの62.8%なので、試しに5,134,213円(約44,409ドル)に61.8%をかけてみると、3,224,286円となります。

一方、日本の一級建築士の初年度年収は約331万2000円で、ビッグマック指数で算出したアメリカの初級建築士の平均給与の日割り計算値より若干高く、印象的ではないものの凌駕しています。約28,648.97ドルで、これはアメリカの初級建築士の平均給与のなんと64.5%にあたります。61.8%と64.5%は、ほとんど誤差の範囲内といってもいいでしょう。

確かに、日本の物価は安いです。ありがたいことに、日本に住んでいると、人々はおいしい食事、公共交通機関、国民健康保険制度にアクセスでき、そして、ほとんどのものが安く手に入るのです。

しかし、私たちの職業について一般的にはどう言えるでしょうか? 私たちの国についてどう思いますか? さらに、私たちの文化全体についてはどうなのでしょうか? 米国では、コンピュータ・エンジニアリング・プログラムを修了した新卒者の年収が最高で74,000ドルであることを思い出してください。一方、建築家の平均給与は44,409ドルで、その差は60%にもなります。これは、私たち自身の永遠の、内部的なビッグマック指数なのです。他の職業と同等になるには、そう、日本のような国が他の国と同等になろうとするのと同じように、困難で微妙なものになるのでしょう。傲慢になる必要はありませんが、自分たちの仕事、自分たちが世界に提供している価値について自覚し、無力感という自己憐憫を捨てなければならないのです。そうでなければ、私たちの職業は新しい才能を惹きつけることができず、一種の頭脳流出が起こってしまうでしょう。そのためには、ビックマック指数を変えなければならないのです。

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