旧街道を走る訳 - エピソード② [ニュースレター:七月号] / by kaz yoneda

道中

日坂、静岡県

先月、私たちは日本橋から旅を始めました。日本橋からは、日本列島の隅々まで毛細血管のように街道が伸びています。しかし、最も重要なのは、江戸と京を結ぶ道筋です。興味深いことに、「京」も「都」も首都を意味する語ですが、急速な近代化、正確には西洋化を進めるために、明治維新政府が穏便に首都を江戸に移し、名称を「東」「京」(東の都)と改めたことで、その名は意味をなさなくなりました。そして、尊ぶべき都市にいた学識者たちは去ることを余儀なくされ、まだ先が見通せず、大いに可能性を秘めた江戸(「エピソード01:起点終点」を参照)に身を置くことになりました。今も私たちは、教え込まれたように頑なに、あるいはノスタルジックな思い出にひたるかのように、もはや都ではないその街を「京都」と呼び続けているのです。


日本橋から先に進むと、街道全体を成立させるための一連の点的な要素がありました。これらの場所にはいくつかの種類があり、以前から存在する地点を結んだ線、街道沿いに施設が集まった地点、両者のハイブリッド、などに分類できます。最大の地点は「次(つぎ)」、もしくは「宿(しゅく)」と呼ばれ、多くの場合は岡崎や小田原のように重要な封建的都市を基にした町でしたが、なかには、品川のように旅館を中心とした商業活動で急速に繁栄したことで新たに成立した宿場町もありました。比較的小規模ではありますが、街道の重要なインフラであった「関所」は、地元の奉行や守衛が旅人の往来手形を確認する場所であり、箱根はその中でも最も悪名高い場所でした。これらの地点の間隔は不規則で、街道の起点から終点まで規則的な間隔を示すのは、街道の両側に対で設置された一里塚でした。一里塚とは、一里(約3.9km)を示す土を盛った塚で、旅路のマイルストーンであると同時に休息の場でもありました。塚の頂上にはしばしば槇の木が植えられ、突然の雨嵐や夏の暑い日差しから、旅人の身を守ってくれました。景観、交通インフラ、災害対策を組み合わせた素晴らしいデザインです。風景を織りなす松並木や日光街道に見られるような杉並木も上記の三拍子が揃った線的な顕れです。

笠寺一里塚、愛知県

次なる歴史的地点の階層は、神社やお寺です。街道筋よりも先に建立されたものも、街道に沿って隣接する新しい村が建立したものもあります。一つ一つを訪れるには時間と手間がかかりますが、それでも街道から離れた場所にある神社や仏閣へ参拝してみることをお勧めします。他にも連綿と続く街道を歩くのに耐えうる、小規模ながらも多彩な要素が点在しています。それは、道教の伝統、神道の神々、仏や菩薩、そしてそれらが混ざった石像の数々です。少し例を挙げると、馬頭観音、ツルツル頭の地蔵菩薩、道教・仏教・神道のキメラである庚申塚、素朴な道祖神などです。

地蔵石仏、和田峠

こうした要素は、線上に続く街道の旅路を豊かにしてくれますが、今日では絶滅しつつあります。北斎や広重の街道筋に関する浮世絵は、もとはと言えば庶民が二束三文で買える同時代の、時には誇張された旅行記だったにもかかわらず、今では歴史の一級資料になっています。逆説的に言うと、それだけ原風景が残っていないということです。なかには、墓碑銘のような石碑という形だけを残して消滅してしまった宿や村もあります。さらに大胆な開発になるとショッピングモールや量産型建売住宅、ときにはラブホテルのような超世俗的なものが村に取って代わっていることもあります。一里塚の多く、少なくとも対のうちのひとつが、高速道路を作るために取り壊されたりもしました。名もない神社仏閣は、檀家が村と一緒にいなくなったために、壊滅的な状態で放置されているところもあります。石の神仏たちは、良くて放置、または移設されて寄せ集めになったり、はたまた取り壊されたりと、他の点的物象と等しい運命をたどっています。近代化以降からの均質性がますます高まり、平凡さに価値が与えられてきたのでしょうか。風景を取り戻せ!などとセンチメンタルで時代に逆行したことは言いません。ただ私たち現代人がこれからのまちづくりや地域の復興・再開発に携わるときに、いかに新しい手法や技術革新がその場所の歴史や「らしさ」といった質的なものを排除せず共存し相互作用させていけるのか。その奮闘がその場のリアルな可能性を最大化するのではないでしょうか。今はなき次や宿場のVRやARなどのたぐい以上に本質的なリアルに。

麦畑の中のラブホテル、東海道沿い

///////////////////////////
次号では、「旧街道を走る訳」の最終編として、点的な要素と線的な要素の集合体として織りなされるネットワークの面性についてお送りします。

お付き合いいただきありがとうございました。それでは、次回をお楽しみに!

執筆(英文):カズ・ヨネダ
ネイティブチェック:グレッグ・セルヴェータ
編集:出原 日向子
アソシエイト:園部 達理