「地方」と「都市」以外の考え方 [ニュースレター:十一月号] / by kaz yoneda

前号では女性が変えた都市について述べましたが、今回は「都市」とその対局にあるとも考えられる「地方」について考えてみましょう。有名な「シムシティ」というゲームでは、住宅の近くに公園を作ると人口が増えるのをご存知でしょうか。日本人の自分からすると、これは少し不思議な感覚でもあります。近くに公園があろうとなかろうと、東京都心の不動産事情は「駅チカ」か否か、大規模な開発がすすんでいるか、などで人口は大きく左右されるように思えるからです。

新型コロナウイルスは、私たちの暮らし方を大きく変えました。自宅にいる時間が長くなり、いまだリモートワークの人も多くいます。新しい生活スタイルになったいま、都心にこだわる必要もなくなり、地方や郊外への移住も視野に入れる人が増えたでしょう。しかしながら、今年7月に行われた学情による調査によると、「都心に住みたい」「できれば都心に住みたい」人は、全体の約6割を占めており「郊外に住みたい」と答えた人は約25%にとどまっています。実際のところ、東京都心部の地価はいまも上がり続けており、富裕層を中心に都心部のマンションの購入が盛んだといいます。主に通勤時間を減らすために、超都心の人気が改めて高まっているそうです。

先述の通り、日本の不動産を考えると「駅チカ」という条件は地価に大きな影響を与えます。多くの不動産検索サイトにもその項目があるとおり、「駅徒歩○分以下」という条件で探す人もいるでしょう。しかし例えば、アメリカのポートランドやニューヨークを見てみると、必ずしもそればかりが重視されるわけではないことに気づきます。近くに公園があるか、素敵なカフェがあるか、安全性は高いかなど、数値化できない部分も重要な条件となっています。セントラルパークに面するマンハッタンのアッパーウエストは、高所得者向けの居住地として有名なエリアですし、ポケットパークと呼ばれる小さな公園の周辺も人気です。ポートランドのように自転車道が整備されていることも、住む人にとっては大事な要素となっています。これらのエリアが交通の面で便利かは、また別の話なのです。まさにシムシティ的な感覚が、これらの街にはあるように思えます。

日本は「都市」と「地方」の極端な二極化が進んでいると言われますが、これは「まち」の作り方に起因するように思えます。利便性だけにとらわれず、まちに必要なアメニティが揃えば、自然とコミュニティが生まれるでしょう。自宅付近にいることが増えたコロナ禍は、ある意味でチャンスともいえます。駅から遠かろうと、多少不便な立地だろうと、その場所に新しい価値を生む可能性はいくらでもあるのです。実際、首都圏エリアの外側では、このような動きが少しずつ生まれつつありそうです。

これからの時代のまちに求められているのは、いわば本質的なQOLーつまり、生きること自体、生きがいの質―です。それがなければ、都市だろうと地方だろうと、今後の発展は見込めないでしょう。居住空間内のアメニティだけでなく、周辺のプログラム、環境の豊かさ、安心安全などが包括的にバランスがとれて初めて、そのまちに魅力を感じ、住もうと思う人々が自ずと集まってきます。アーリーアダプター的な人々に触発され、また新しい人が増えるという、ポジティブなループが望めます。資本のためだけでない投資により、いいまちは生まれます。都市と地方、郊外を区切るのではなく、小さなコミュニティという単位とそれ等のネットワークによって、まちは新しい価値を手に入れるかもしれません。 

この風景は未だ東京都が醸し出すもの

執筆:角尾 舞
翻訳:村山和裕
監修:カズ・ヨネダ